ライブでワーッとやっている人ってどういう神経しているんだろう?
手とか振り上げちゃってさ。
踊っちゃってさ。
そんな自分が好きなのかな?
ギターなんてうるさいし。がなるようなボーカルなんて何言ってるかわからないし。
絶対ライブなんて行かない。ラブアンドピース? なにそれ。
なんかこわい。
そう思っていた。
ロックンロールなんて聞いたこともなかった。
ロックどころかビートルズとクイーンの区別すらつかないくらい音楽に詳しくなかった。
そんな私の前に燦然と現れたサンボマスター。
ドラマ『電車男』の主題歌に使われた『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』という楽曲名を聞けば「なんとなく名前だけは」という方もいるかもしれない。
日本のスリーピースバンドで、見た目はお世辞にもパッとする感じではない。
(いや~ほんと最高にかっこいいおじさんたちなんですよ!)
2011年4月。
『佐野元春のザ・ソングライターズ』に出演していたサンボマスター・ボーカル山口隆さんの回さんを偶然目にして、衝撃が走った。
これは「見て」としか言いようがないのだけど(アーカイブがないのが惜しまれる)本当に本当に頭を殴られた。
山口さんに質問しようとして涙で言葉をつまらせる学生の姿。その学生に本当に優しい言葉をかける山口さん。「ああ」と嘆息した。
「彼がやっているものがロックンロールという名前なら、私はロックンロールというものが間違いなく分かる」
と思った。
幼馴染とすぐにその場で全部のCDを買って、7月のライブのチケットをとった。
バンドのチケットをとるなんて生まれて初めてだったのにその時は夢中でただただ当たり前のことをしているとしか思わなかった。
わたしの漫画家デビューは2011年初夏。
準備は2月頃から進められていた。
震災。
この二文字によって「漫画なんて描いてなんになる」と新人のわたしは初っ端からつきつけられることになった。
でもわたしにはサンボマスターがいた。
テレビもないたった6畳の仕事場に置かれた小さな1000円のCDデッキに入ったサンボマスターが、
「俺は諦めない」
と繰り返すのだ。
「君の名前は光」
とも。
かくして初めてのライブでわたしは手をふりあげて声を出して大泣きした。
自分の中にこんな衝動があったことに驚いた。
周りのひとも大泣きしていた。
お兄さんもおじさんも、おねえさんも、おばあちゃまも、お子さんも、いろんな年代の人がいてみんなが各々泣いたり笑ったりうっとりしたりして、好きな感情を表に出していた。
ここは
「自由に感情を出していい場所で、そしてそれを笑うひとは誰もいない空間」
だった。
わたしはこれまで誰かに自分を指をさされて笑われるのを怖がっていたのだとそこで初めて自覚して、それにも改めて泣いた。
サンボマスターのライヴを観に大阪に来た。凄まじく素晴らしかった。音が心に響き過ぎて、心を貫通した。普段の僕なら、隣の人に自分の内臓が見られないか不安になるのだが、今夜の僕はサンボマスターに夢中で全て忘れることができた。最高の時間だった。
— 又吉直樹 (@matayoshi0) 2012年5月12日
わたしはこの又吉さんのツイートが好きだ。本当にそうなのだ。
わたしはかくして「ロックンロール」を知った。
私の2つ目の連載の取材先は福島で、往復の新幹線ではいつも『ロックンロールイズノットデッド』をずっと聴いていた。
福島の至るところを回った。
帰ったら野馬追ライブのDVDを何度も見た。
君の名はロックンロールで、ロックンロールは死んでいなくて、そんなロックンロールをサンボマスターは必要としていて、もし世界中の人間に今日みじめにされたとしてもサンボマスターだけは自分を必要としてくれるという事実はわたしを救った。
サンボマスターにはそれだけのエネルギーがあった。
彼らは「みんな」ではなく、あくまでいつも「ぼくときみ」という構造を崩さなかった。
「きみ」「あなた」といつも呼びかけられること、いつも「一緒にやっていこうぜ」「一緒に生きていこうぜ」と繰り返されることがどれだけ人をすくいあげることか。
いつだったかのライブのこと。
わたしと幼馴染はスタンディングライブ素人だった。
ときには前の方にモッシュで押し出されてへとへとになるくらいまで踊らされたりもした。
背が小さいから前の方でも全然ステージが見えない。見えないけれど爆音でサンボマスターが聞こえる。それでいい。
サンボマスターは見える見えないじゃない。聞こえるか聞こえないか、やれるかやれないか、なのだから。
その日のライブはへとへとになるまでもまれて、おどらされて、わたしと幼馴染はぐちゃぐちゃになった顔を見合わせて笑った。
インドアでドストエフスキーやらサリンジャーが好きで静かな観劇が好きなわたしたちが、こんなうるさい場所でもみくちゃになるなんて、人生なにが起きるかわからない。
タオルもTシャツも汗でびっしょりだった。
なんだか妙に嬉しかった。
帰りに幼馴染からLINEが届いた。
「帰ってポケットに手を入れてみたら、ピックが入ってた。山口さんが最後に投げたピックが、私のポケットにホールインワンしてた。こんなことあるんだ」
よくわからないまま電車の中で泣いた。
欲しいと手を伸ばしたわけじゃない。ためらって伸ばさずにいた。
なのに気付かないうちに忍ばせてくれた相槌のように思えた。
大丈夫だよ、君のことだって見ているよ、だから一緒にやってこうぜ、と。
わたしはロックンロールのことなんてちっともわからない。
ロックンロールという言葉の使い方なんてまったく知らない。
でもポケットに入ったピックは「ロックンロール」。
そこにあったのは「ぼくときみ」だった。
ああはやくまた手を振り上げて、泣いて笑って、歌って踊れる「あの場所」に行きたい。
9年前のわたしはびっくりするだろう。
野蛮だと眉をひそめるかもしれない。
綺麗事だと笑うかもしれない。
そんなかみそりの上に立っているようなわたしすら、愛しくておかしい。
今なら「君はいたほうがいいよ」とすら思う。
サンボマスター20周年おめでとう。
一番大きな花束をあなたに。
新しく光れ。
P.S.
もしサンボマスターに興味がでた方がいらっしゃいましたら
●サンボマスター 究極ベスト
はずせないベストアルバム。
楽しいのからかっこいいのから色々はいってます。
●ロックンロール イズ ノットデッド
表題作『ロックンロール イズ ノットデッド』、ぜひ公式動画を見てみてください。
震災後のアルバムです。楽曲を作っているボーカル山口さんは福島出身。
●YES
YESにも触れられている好きなサンボマスター武道館レビューです。
生きる光を与えてくれたサンボマスター – ビューティフルな景色はここにも広がっていた (みそ) – 2018年2月・月間賞最優秀賞 | 音楽文 powered by rockinon.com http://ongakubun.com/archives/3901
おすすめしきれない!