WEBサイトを作るということ

『ようこそいらっしゃいました、あなたは◯◯人目のお客様です』
 もはや”古のホームページ”を表現するネットミームと化しているこの一文を、私はとんでもなく愛しています。
 次のキリ番を待つカウンター、レインボーで立体的なPOP体のサイトタイトル、突然鳴り出すmidi、工事中のギャラリー、点滅する「new!」の素材、文字色を選べたら少しオシャレ感のあったBBS、バナーはお持ち帰りでお願いしますリンクページ……。
 今はもう殆ど見ることのなくなったものたちばかり。書きながら少し胸焼けしてしまった。

 当時この「◯◯人目」は私にとって魔法でした。
 自動的に増えていく数字。リロードすればその1人に自分が加わっているという興奮。
 小学生を熱狂させるにはじゅうぶん。
 文字を書くことも、絵を描くことも、数字が増え続ける「◯◯人目」の魔法的技術力の魅力の前にはかなわないんです。
 「〇〇人目」を表示してくれるカウンターは、「見てくれる誰かがいること」が前提として作られた、私にとっては圧倒的な「コミュニケーション」でした。

 WEBサイトは対話だと最近切に思います。
 誰かと誰かが出会える場所……というわけではなくて(そういう場でもあるけれど)、私にとっては「”私”と”WEBサイト”そのものの対話」の場です。
 素人で独学ながら自分でこつこつと書いたHTMLやCSSで、画面が表示されたりされなかったり、色が変わったり変わらなかったり、動的なエフェクトがかかったりかからなかったり……「この方法はどう?」と辛抱強く同じものごとを別のやりかたで伝えて、最後にやっと動いてくれる。
「やった、話が通じた……」
 どうにも動作確認時のセリフとは思えないのですが、これが未だに私の実感です。
 こちらがちゃんとした手続きをふんだ分だけ、あちらもこたえてくれる。
 気心のしれた友人に何か打診したとして、ここまでジャストに「こうでしょ? これがあなたの欲しいものでしょ?」と返ってくることもそうないという気もします(もちろんその伝わらなさやズレが対人感の愛しさでもあるので私はこちらもまた愛しています)。
 WEBサイトは世間一般的には人に見せるもののようですが、私にとってはまず私が参加してぞんぶんに会話を楽しむもののようでした。

 今回十年ぶりにまともに一からサイト作りをしました。
 WordPressを使ったのでPHPが主になって、逃げ続けてきたPHPのお約束を覚えなければいけなかったり、新しいCSSや、フレックスボックスの使い方もだいぶ覚えました。少しだけjavaScriptの基礎も学んでIfやArray便利だな~と思ったりもしたり(そしてjQueryもアメイジングの一言に尽きますね)。スマホやタブレットが主流のこの時代、メディアクエリにもたいそう助けられました。長らくはなれていたうちに、魔法はどんどん進化していたようでした。
 作りながら、
「これを見に来てくれる人はいるのだろうか……」
 という思いがわくことはなく、むしろ、
「私が見てる! 私が楽しい! 私が一人目のお客様で、百万人目のお客様!」
 とワクワクしかしなかった。
 もちろんこれを読んでいらっしゃるということはあなたは見に来てくださった方なので、私と一緒に「◯◯人目」の魔法を少しだけ体験してくだされば幸いです。
(オススメはABOUTページCOMICSページの日英切り替えボタン。「英語の情報いるか?」というツッコミは無粋で、切り替えボタンを付けたいがために英文を用意しました。ギミックのために内容を用意するなど、なんて本末転倒で贅沢なことなのでしょうか)

 今はWEBサイトの時代ではありません。
 きっと。多分。確実に。
 今とっくに訪れているSNSの時代は、手元のスマホで200字に満たない文字を読み、高画質の画像を愛で、情報をものすごいはやさで共有でき、運河に流れてくる人々の日常を眺めることができる時代です。これもまた私の待っていた未来でした。
 そんな空気感の中、2019年3月11日、私は再びWEBサイトをリニューアルして立ち上げました。
 3月11日というのは2001年にWEBサイトを初めて作った日、いわゆる開設日というもので、「あの日」までは毎年ゆるくお祝いをしていた日でした。これはいつかお話できたらよいなと思うけれど、私のデビューは2011年の夏の始まりで、「あの日」からの数ヶ月間は新人漫画家としての自分にとって思うところがたくさんある日々となりました。
 私はあのとき臆してしまった。
 自分のサイト開設日はもう祝えなくなったと思った瞬間に「サイトを縮小しよう」と思い、長年続けてきた長編小説をいくつもかかえたWEBサイトからデータを一掃し、ドメインも変更し、最低限の情報だけを載せるサイトを申し訳程度に作った。
 そんな私の心境が変化するまで8年という時間がかかりましたが、この度また「WEBサイトと会話したいな」と思うことができるようになったのです。
 本当に嬉しかった。そして、寝食を忘れるほど楽しかった。

『ようこそいらっしゃいました、あなたは◯◯人目のお客様です』
 この文言は流石に今の私のWEBサイトにもありません。
 けれども「◯◯人目」のあのドキドキをまた味わいたくて、私は今一度WEBサイトを作ってしまった。
「私とWEBサイトが長時間会話したんだ。私は自分で何度も再生しちゃうんだけど、よければ君も録音を一瞬聞いておくれよ。なかなか悪くないと思うぜ」
 そんなホールデン口調で自分の作ったものをオススメしたい気持ちにすらなってしまう。
 ノスタルジーでも反発でも提案でもない。
 おそらくこれを「趣味」と呼ぶのでしょう。

 これが私がWEBサイトへ抱く他愛もない愛情です。
 楽しんでくれたら嬉しいな。